アメリカといえば、ご当地ラジオ。それぞれの町に必ず1局といってよいほどのラジオ局があります。古くは映画「アメリカングラフィティ」でウルフマン・ジャックが演じたD.Jが思い出されますが、地域密着型でいかした音楽を届けてくれるチャンネルの存在はこの国ならでは。
そんな中でも南部にはまさに「伝説の」と呼ばれるステーションが存在しています。
ひとつはクラークスデイルのWROX、もうひとつはメンフィスのWDIA。どちらも黒人音楽専門のチャンネルとして誕生した歴史を持っていますが、せっかくの機会なのでこれらの所在地を訪れてみることにしました。
人口約2万の小さな町クラークスデイル。そのメインストリート、デルタ通り257番地に面したWROXの社屋。1Fがミュージアムなっているとのことでのぞいてみると...ん?平日の朝方ということもあってか誰もおらんです。仕方ないので通りの向かいにあった「CAT HEAD」というブルース関係のお店で尋ねてみると「あ〜普段はあんまり人来ないから開けてないよ。オーナーに電話してみるからちょっと待っててね」と連絡を取ってくれました(いい人だ)。すると、しばらくしてオーナーのオキーフ氏登場。「やあ!ようこそ。仕事で日本に行ったことあるよ。まあどうぞ」といって中へ案内してくれました。
1階は1950年代の機材やWROX関係のメモラビリアが展示されてミュージアムショップが併設されて...といった説明がまあ妥当なんでしょうが、正直それで熱心に商売しようという感じはあまり伝わってきません。でもその脱力かげんがかえって1950~60年代の南部の雰囲気を今に伝えてくれているようで、私には好感が持てました。
そして2階へ案内してくれましたが、この2階こそがかつてサニーボーイ2世やB.B.キング、アイク・ターナーたちが出演し、そのパフォーマンスがオンエアーされたスタジオそのものとなります。子供のときのエルヴィスがのど自慢大会で入賞したときに歌ったのもこのガラスの向こう側です。現在、実際の放送は移転した新社屋から出力されているので、ここはほんとに時計の針が止まったまま、内装はやや荒れてきてはいますが、スクーターよろしく基本オリジナルコンデションで残されています。D.J.ブースといったって、まるで高校の放送室みたいなもんです。
雨に煙るスタジオの窓からは、マディ・ウォーターズが1949年の初期録音「CANARY BIRD」で歌った、あの2nd St.が見下ろせます。
こんなちっぽけな田舎町のスタジオで偉大な歴史がかつて作られた、ということを思わせるに十分な雰囲気が、ここにはリアルにひっそりと流れていました。
帰りがけにオキーフさんから、旧いWROXバンパーステッカー(1970年代のもの)をおみやげにいただきました。
これはほんとうにうれしかったです、個人的にはこの旅でいちばんのおみやげになりました。