イノチェンティ・ランブレッタの直線番長のお通りです。クオーター(400m)またはマイル(1600m)の直線をヨーイドン!で駆け抜けるドラッグレース(スプリントレース)は日本でも「ゼロヨン」として知られていますが、彼の「全ての乗り物を競争させてしまう」モータリゼーション先進国、英国に於いては旧くは1950年代からスクーターのカテゴリーでもそうした競争が行われてきました。
現車は1960年代半ばにシリーズ3ランブレッタをもとに製作されたスプリントレーサーですが、フレームにLi-S、またスタッドの位置ゆえにと思われますが、エンジンには今となってはぜいたくとしか言いようのないTV200が使用されています。直進安定性を高めるためにロングホイールベース化が計られ、リアサスはリジッド。またこの頃、レースシーンで一瞬(!)流行の兆しをみせていたウォル・フィリップスの機械式フューエルインジェクションを採用するため、フレーム加工が施され一見トラスフレーム状にも見える外観となりました。英国らしくSMITHSの回転計が装着されたエンジンは71.6mmx58.0mmのショートストローク、233.4cc。鋳鉄シリンダーながら丁寧なポート加工が施されています。クラッチはノーマルの4枚から7枚へとほぼ2倍近い容量を確保。そのためチェーンケースから削り出された一品物のスペーサーは、スペシャルパーツが簡単に手に入るようになった現代からみれば手作り感あふれるものですが、しかしそれすら見方を変えればまさに「ローマは一日にして成らず」のことわざの通り、スクーターレース進化の歴史を、我々に深くかみしめさせるための生き証人と言ってもよいでしょう。
徹底的に軽量化が計られた外装は、シリーズ3ランブレッタの重要なアイデンティティともいえる、ヘッドセット、ホーンキャスティング&フロントマッドガードは全て取り去られてしまっていますが、機能上は敢えて残す必要もなかったテールユニットのケースだけを残したことで、かえってこれぞランブレッタのレーサー!!としかいいようのないルックスを得ることに成功しました。このあたりのバランス感覚、製作者のセンスに脱帽です。世にあふれる「カスタム車」とは何ぞや!?という問いにさりげなく答えを出してくれているように、私には思えます。
40年以上前に塗られたペイント、凹みやキズもそのままに本物の持つ静かな迫力が伝わってくる1台です。ランブレッタのレーシングヒストリーの一環を担う、貴重な車両の価値をご理解いただける方、コレクションの1台に加えてみてはいかがでしょうか。
車両本体価格(現状渡し)ASK