さる2009年10月、創立60周年を迎えたブリヂストンサイクル株式会社ではこれを記念して、これまで同社で作られた代表的な製品を収集、展示しようという事業が行われました。全国のBSサイクルディーラーから集められた数多くの新旧自転車とともに、同社の重要な歴史の一部としてオートバイも展示したいということで、密林商會にも、BSオートバイを代表する1台BS90スポーツ(EA2)のレストレーションのご依頼をいただいておりましたが、この度修復が完成し、上尾本社へ納品。工場出荷以来なんと46年ぶりに生誕の地への帰還を果たすこととなりました。
修復のベースとなった車両は貴重な国内物のBS90スポーツ(EA2型)。もともと腐食や欠品の少ない程度の良い個体でしたが、工場出荷状態への復元を期すために、細心の注意を払って作業を進め、「虎の子」として保存しておいた貴重なBS純正部品も数多く組み込みました。
また、テールに取り付けられた知る人ぞ知る「ほうきに魔女」のエンブレム。1964年の東京モーターショー出品車にのみ取り付けられたマスコットでしたが、市販に際しては採用されることがなかったため長らくBSエンスージャストにとっては「幻の」存在として語り継がれてきたものです。
現物はすでに失われて久しかったのですが、今回の記念事業と90スポーツの歴史的意義を鑑み、当時設計部に所属し、これを製作した林英次氏の手によって、再び原型(木型)が彫り起こされ、砂型鋳造で製作されたものになります。
また市販車は前後17インチのタイヤ径でしたが、現車は当時ロードレース用キットパーツに用意されていた18インチのH型アルミリムに換装してあります。これは、設計陣が試作時にスポーツモデルとして意図したものの、当時のマーケットの状況では許されることなく、ついぞ果たせなかったディメンションになります。そうした歴史的経緯を踏まえた上で、設計陣が思い描いていたEA2の「至高の姿」に敬意を表して組み立てました。
今回のブリヂストンサイクルの60周年記念事業に際しては、過去の製品にきちんと目を向けて、長年にわたるものづくりの連綿とした積み重ねがあってこそ現在があるのだ、という強い意志を感じ、我々もそうした事業の一部に関われたことに大変感謝しております。なお車両はブリヂストンサイクル上尾工場内の展示スペースに数多くの同社製品のコレクションとともに永久保存されることになります。見学ご希望の方は同社受付までお問い合わせ下さい。
(写真左から、今回の60周年記念EA2プロジェクトの全面的な窓口を務められたブリヂストンサイクルの平塚弘之氏、その精神的支柱であった同社渡辺恵次社長、ブリヂストンMCよりサイクルO.Bの金井朝男氏、当時設計主幹を務めた林英次氏、密林商會でこの車両の製作を担当した大西亮)